うねうね山道、とぼとぼ歩いて数時間、
モッコがやっとこ山裾の、小さな街に入ったのは、もう明け方の空気が白い朝でした。
「さてどうしたものか?どうしよう。お腹は空いたし疲れたし。」
脚はまるで昨日までの木の棒に戻ったように疲れてしまって動きません。
モッコはもう泣いてしまいそうでした。
それでもなんとか重たい足を引きずって、
街のはずれの大通りまでたどり着くと、
歩道に一本ポツンと立った街路樹に
持たれてすやすや眠ってしまいました。
ピーチクパーチク電線にスズメが鳴いておりました。


がやがやがや。
お日様が少しだけ登って、空が青くなってきた頃、
なんだか周りが騒がしく、モッコは目を覚まします。
「なんだよう。うるさいなあ。寝られないじゃないか。」
モッコはそう言って目をこすると、自分の背後を振り返りました。
そこは道路脇の芝生がずうっと続いていましたが、
芝生ではない得体の知れない何かもまたずうっと続いていたのです。
「な!なんだちみはっ!? なんだちみたちはっ!」
よく見るとそれは赤や黄色や緑や青の、
へんてこな形の生き物たちでした。
何十匹もの不思議な生き物たちは相変わらず、がやがやがやとうるさいながらも、
なぜか整然とモッコの後ろに並んでいました。
どうやら敵意はなさそうです。
むしろ、よくよく見ると案外可愛らしいのです。
彼らの姿を眺めていると、なんだかたくさんの友達がいっぺんに出来たようで
モッコはどこか嬉しくさえなっていました。
冷静になったモッコはやがて、ぷうんと何かが臭うのを感じます。
それは赤や黄色や緑や青の彼らが発する臭いでした。
酸っぱいような甘いような辛いようなしょっぱいような。
ふんふんふんふん、いい臭い。
ご飯を一杯くださいな。
モッコは自分のお腹が鳴る音を聞きながら、
そよ風に乗ってやってくる彼らの臭いを嗅いでいました。
「やあ、君も漬け物かい?」
突然、一番近くの黄色いやつがモッコに話しかけてきました。
モッコはぽかんと口を開けたまま、逆に聞き返します。
「えっ?漬け物?・・・んじゃあ、君たちはみんな漬け物って生き物なの?」
黄色いやつは、モッコを呆れたように見つめると、
「当たり前じゃないか。僕はタクアン、君もゴボウか何かの漬け物なんだろ?」
純真無垢なモッコは、そうなのか、僕は漬け物だったんだ、と内心思いながらも黙っていました。
得意げにタクアンが続けます。
「あっちの青いのはナス、そこの赤いのは人参、むこうの緑色のは・・・」
と、その時です。
大通りの向こうから大型トラックが何台も、
ぶおんぶおおん。とやってきて、
モッコたちのいる一本だけの街路樹の前で、
ききっ、ぷっしゅう。と止まりました。
モッコがびっくりして立ち尽くしていると、
一番先頭のトラックの窓がくるくるくるっと開いて、
眉毛の繋がったおっさんが、タバコをくわえたまま顔を出しました。
「さあさあ、のったのった!時間がないよ!やる気のあるやつみんな乗った!」
ダミ声の大きな声に圧倒されたのか、
漬け物たちのガヤガヤはいつの間にかやんでいて
みんな静かに整然とトラックに乗り込んでいくのでした。
「君も来るんだろ?」
ひとなつっこそうな緑色の漬け物がモッコに聞いてきました。
「う、うん・・・」
行く当てもないモッコの生返事に、緑のやつが重ねて聞きます。
「おれ、きゅうり。きみは?」
少し考えてモッコは返事をします。
「僕モッコ。多分・・・ゴボウの漬け物。」


5分もするとモッコと漬け物たちを乗せたトラックはすでに走り去っていました。
もうガヤガヤもダミ声もトラックの音も聞こえてきません。
ピーチクパーチク電線のスズメの鳴き声ばかりです。
一陣の突風が、取り残された一本の街路樹を揺らしました。
よく見るとその木には、貧相な看板が一枚ぶら下がっていて
そこには手書きでこうありました。
『ろうどうだよ!ぜんいんしゅうごう!パンパーカパンパン♪パンパンパン♪パンパンパッカパッカパーン♪』


つづく